誰もが熱中症にかかりうる時代
2018年の夏は酷暑になると予測されています。すでにその片鱗は見えていて、東京では日中の気温が30℃を下回ることはほとんどありません。この記事を書いている7月12日はやや涼しいという予報でしたが、実際にはわりと暑いです。湿度が高い分不快指数も高めです。
熱中症患者は年々増えています。昔より気温が高くなっていますし、都市部はエアコンによるヒートアイランド現象が酷くなっていますし、人口における高齢者の割合も高くなっています。おまけに働きざかりのVENGA世代の運動不足・体力不足は深刻です。
梅雨明けから夏の序盤にかけては、身体が日光や暑さになれていないので特に熱中症患者が増える時期です。湿度が高いので汗が乾かず、室内でも熱中症にかかることがあります。寝ている間に室温が上がって重症化すれば、若くて体力がある人でも命を落としてしまいます。
熱中症はおそろしい病気です。一度でもその辛さを味わえば、二度と体験したくなくなるでしょう。しかし熱中症にかかったことがない人や、運よく軽症で済んでかかった自覚がない人に辛さを説明するのは難しいです。
2018年夏は、これまで平気だった人でも熱中症にかかる危険性が高いです。熱中症とは一体どういう状態なのか、具体的にどのような症状が出るのかを解説します。予防はもちろん、熱中症になったときの対処をしっかり予習してください。
熱中症とは
熱中症とは、暑い場所・蒸す場所で体温調節ができなくなって体温が上がったり、熱のせいで内臓や細胞が異常な状態になって起こる症状の総称です。VENGA世代が子供のころは「日射病」「熱射病」と呼ばれていましたが、日光に当たっていない夜や室内でも起きるので「熱中症」と呼ばれるようになりました。
ヒトは恒温動物といって、常に体温が一定の動物です。身体の表面で測る体温、つまり風邪を引いたときにワキの下で測るような体温は環境によって左右されることがありますが、直腸ではかるような深部体温は常に37℃前後に保たれています。
体温が一定に保たれていないとヒトは生きられません。特に人体を構成するタンパク質は42℃を超えると変質し、固まり始めます。ゆで卵と同じだと考えてください。一度変質したタンパク質は元に戻りません。体温が高い状態が続くと命にかかわるのはそのためです。
体温が高くなると汗が分泌され、汗が蒸発するときに気化熱として体温が使用され、身体が冷えます。
熱中症は、水分や塩分が不足していたり、周囲があまりにも暑かったり、さまざまな要因が重なって体温が下げられないと起こります。軽症ならば涼しい日陰に移動して、水分を補給しながら身体を冷やすことで回復しますが、重症化すると特別な治療で体温を下げなくてはいけなくなります。
熱中症は重症度によって、Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度の3つに分類されています。Ⅰが軽症で、Ⅲが重症です。どのような症状が重症度の判定に用いられるのか見ていきましょう。
Ⅰ度(軽症)…休めば回復
最も軽いⅠ度(軽症)の主な症状は以下の通りです。
気分が悪くなる、目の前が暗くなる(立ちくらみ)、手足がしびれる、筋肉痛、こむらがえり、顔色が悪くなる、身体がだるくなる等
どれも暑い日や直射日光にさらされているときに起こりやすい症状ですね。これらも軽度の熱中症の症状なんです。「暑くてクラクラする」「暑くて吐き気がする」「汗がたくさん出て顔色が白くなってきた」こういう症状が出たら、すぐに日陰の涼しい場所に移動して、水分補給してください。
症状が軽いうちは、身体を冷やしつつ休めば回復します。なかなか回復しない場合は病院へ行く必要があります。
特に顔色の変化を見逃してはいけません。暑いと一般的に顔は赤くなりますが、熱中症の域に到達すると逆に青白く血の気が引いていきます。というのも血圧が下がるからです。
血圧は血流量と血管の太さで決まります。血流量が同じ場合、血管がキュッと縮まれば血圧が高くなり、血管が広がれば血圧が下がります。体温を逃がしたいとき、人体は血管を大きく広げます。
血圧が下がると脳に血がまわらなくなります。顔色が青白くなっていくのは頭部の血が足りなくなっているからです。立ちくらみやクラクラするのも、脳貧血の症状です。判断力も次第に落ちていきます。
もし脳貧血がすすんで日向で倒れてしまったら、熱中症はどんどん重症化するでしょう。もし暑い場所で顔面蒼白な人をみかけたら、休むように声をかけましょう。また自分自身が暑くて辛いとき、顔色が白いようならすみやかに横になって休むべきです。
休むときは衣服を緩めます。水分補給はゆっくりと行い、塩分も適度に取りましょう。首やワキの下、太ももの付け根など、太い血管が通っている場所を冷やすと回復が早くなります。
Ⅱ度(中等症)……病院で治療を受ける
Ⅰ度の症状に加え、以下の症状が出る場合はすでに軽症ではありません。すみやかに病院へ行き、治療を受けなくてはいけません。
頭痛、吐き気、嘔吐、下痢、めまい、頻脈、強い疲労感や倦怠感、脱力感、酷い汗や汗が止まってしまう等
吐き気やだるさが酷くなると、自力での水分補給が難しくなります。意識がはっきりしていても、水分補給できない場合はただちに病院へ行きましょう。また嘔吐や下痢が発生しているときは、内臓が大きなダメージを受けています。
頭痛は血管が大きく広がることで起こります。頭痛を感じるほど血管が拡張したままというのはよくないことです。
汗がダラダラと噴き出している場合は、体内の水分があっという間に枯渇してしまいます。先ほどまで汗をかいていたのに、汗が止まってしまった場合は水分が枯渇しているので非常に危険です。
見た目の症状が少なくても、意識がもうろうとしている場合は、脳へのダメージが懸念されるので特に注意しなくてはいけません。
自覚症状がある場合は周囲の人に助けを求めましょう。逆に周囲の人がこのような状態になった場合は、涼しい場所で身体を冷やしつつ病院へ運ぶ手はずを整えてください。救急車を呼ぶか迷った場合は「7119」にかけると救急相談センターに繋がります。センターの指示に従ってくださいね。
嘔吐や下痢があると水分だけでなく、細胞や内臓を維持するのに必要なミネラルも失ってしまいます。しかも消化吸収ができなくなっているので、なるべく早く病院へ行って、水分やミネラルを補う点滴を打ってもらいましょう。
Ⅲ度(重症)……ただちに救急搬送すべし!
最も重症のⅢ度に達している場合、誰が見ても救急車を呼ぶしかないとわかります。意識を失ってぐったりしていたり、妄想が見えて変なことを言っていたりします。
このとき体内では脳細胞が死滅したり、内臓機能を失ったり、血が固まったり、大変な症状が進行しています。放置すると30%もの人が死にいたり、治療が間に合っても深部体温がなかなか下がらず後遺症が残ることもあります。
暑い日に倒れている人を見かけたら、迷わず「119」で救急車を呼んでください。
救急車を呼ぶときは、住所を言ってから症状を伝えるほうが患者が助かる確率があがります。「救急車を1台お願いします。場所は~です。〇歳ぐらいの男性が倒れていて、吐いたあとがあります……」という感じです。住所を伝えた時点で救急隊員は救急車を動かせるからです。
とはいえ、倒れている人をみかけたらパニックになりますよね。119さえ押せば、あとは電話担当の人が1つ1つ状況確認の質問をしてくれるので、答えられるものを答えましょう。自分では無理そうな場合は周囲の人に声をかけて手伝ってもらいましょう。
繰り返す熱中症に要注意
ここまで重症度ごとに熱中症の症状を見てきました。Ⅱ度やⅢ度の症状は見かけたら確実に「ヤバい!」とわかりますね。自分がなるのも怖いですし、道端でぐったりしている人がいたら救急車を呼んで専門家に任せるしかありません。
実はひそかに恐ろしいのが、自力で回復できる軽症の熱中症です。特にVENGA世代のようなバリバリ働いている若者だと、軽い熱中症なら休めば回復するものです。
もちろん自力で回復するのに越したことはありません。ですが、熱中症になった後は、体力が奪われるだけでなく体内の水分とミネラルのバランスも大きく崩れます。そしてそれはすぐには元通りになりません。
熱中症の症状が引いたあとも、一週間程度は熱中症にかかりやすい状態が続きます。回復しきっていないうちに無理をすると、再び熱中症に逆戻りです。
少々のだるさなら「夏はみんなそんなもの」とスルーしがちですが、吐き気と頭痛が断続的に続く場合は、病院へ行きましょう。分類でみたとおり、どちらも軽症ではなく中程度の症状に該当します。
とくに頭痛が長引くときは痛み止めでしのぐのではなく、病院で治療を受けねばなりません。脳細胞は一度破壊されると絶対に戻りません。頭痛は血管が広がったせいで起こるのですが、頭痛が続くということは身体が熱を放出し続けようとしているということです。
熱中症で体力を失うと、食欲も失せ、睡眠をとるのも難しくなります。そうすると本格的に夏風邪や夏バテに以降することもあります。若いからと油断せず、忙しいからと言い訳せず、命を守るために病院へ行ってくださいね。
結論! 夏の体調不良は熱中症を疑おう
夏場のめまいや吐き気はいつものことだ、と思っている人もいますよね。ひょっとすると熱中症にかかっているかもしれません。ただ体力が落ちているだけならそれはそれで休まねばなりませんし、自分が思うより熱中症が重症ならやはり治療を受ける必要があります。自覚症状があるうちに休んだり受診したりしましょう。
熱中症の初期症状は、頭痛以外にもさまざまなものがあります。気になる方は以下の記事も是非ごらんください。