座りっぱなし生活のリスクは大きい
長時間座りっぱなしでいると寿命を縮める可能性があるのは、以前からたびたび指摘されていることです。
オーストラリアでは、1日の座位時間(座っている時間)が4時間未満の人と比べると、8~11時間の人は15%、11時間以上の人は40%も死亡リスクが増えるという研究結果も発表されています。しかも恐ろしいことに、WHOが推奨している1日30分以上の運動を毎日欠かさず行っても、死亡リスクは改善されないそうです。
日本人は世界で最も座っている時間が長いです。世界20ヶ国の平均が1日約5時間であるのに対し、日本人は7時間も座っています。長時間労働が当たり前になっているので、リタイア済の高齢者だけでなく、働き盛り世代にも座りっぱなしの人が多いという特徴もあります。
1日7時間が平均と聞いて「そんなに短いの?(わたしはもっと長時間座っているよ)」と感じた方もいるのではないでしょうか。なにを隠そう、筆者もその1人です。
ためしに平日の座位時間を数えてみました。仕事が8時間、休憩が1時間、残業が1時間で合計10時間。帰宅後のプライベートを2時間と考えると、1日のうち12時間は座っている計算になります。そもそもデスクワーカーの多くは、通常の勤務時間だけで7時間を超えますよね……。
死亡リスクが40%も増える、と言われても、20代や30代ではピンときませんよね。でも、仕事中の座りっぱなしが原因でエコノミークラス症候群を発症することもあると聞けばどうですか?
この記事では、長時間座りっぱなしでいることが、酷い浮腫みやエコノミークラス症候群を引き起こす理由や、日々の生活に取り入れられる改善法をまとめました。
座りっぱなしだと血流が悪くなる
座った状態や姿勢のことを「座位(ざい)」といいます。座位というのは身体を休めるのに適した姿勢です。立っている状態(立位)よりもあきらかに楽ですよね。
身体にあまり負担をかけない姿勢なはずなのに、座位時間が長くなると死亡リスクが高くなるというのはなぜなのでしょうか。
長時間座るとふくらはぎの筋肉が動かなくなる
座ったときに一番休まるのは足です。長時間立ちっぱなしだったり、歩き続けたりして疲れたときは、自然と座りたくなります。
足が休まるということは、足の筋肉を使わなくなるということです。体重を支えなくていいので、ふくらはぎの筋肉は弛緩します。
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれる部位です。血液を送り出すメインポンプは心臓ですが、心臓だけでは全身の血流を正常に保てません。足は心臓から遠い上に、心臓よりも下にあるので重力の影響を強く受けます。
ふくらはぎの筋肉の動きの力を借りて、足に折りてきた血は身体の中心部に戻ります。座位でふくらはぎの筋肉が弛緩していると、血は心臓に戻れず足に溜まって浮腫みます。
ちなみに立ちっぱなしでいた場合も同じ理由で血行が悪くなり、浮腫みます。若い女性に多い、夕方になると足の浮腫みが酷くなるという悩みは、ふくらはぎを動かさないことが原因で起こるのです。
生活習慣病が発症しやすくなる
ふくらはぎや足を動かさないことによる弊害は、血行不良だけにはとどまりません。
太ももやふくらはぎにはとても大きな筋肉があります。わたしたちの身体は筋肉を動かすときに、エネルギーを消費します。これを代謝といいます。座りっぱなしで足の筋肉を動かさずにいると、代謝が悪くなり、エネルギーとして消費できなかった糖分や中性脂肪が血液の中に余ってしまいます。
すると糖尿病や高脂血症、肥満などの生活習慣病にかかりやすくなります。また血がドロドロになるので、狭心症や脳梗塞も発症しやすくなります。死亡リスクは生活習慣病にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりすることで高くなるのです。
下半身デブになる
血行不良や代謝の低下は、太りやすい体質を招きます。足の筋肉はもとが大きいので、代謝が落ちるとあっという間にたるんで太くなります。筋肉を動かさないと、老廃物を含んだリンパ液を流すこともできなくなるので、セルライトだらけの硬くて太い大根足ができあがります。
足の浮腫みは運動不足の証拠です。若いほど筋肉を取り戻しやすいので、なるべく早く対処しましょう。もう手遅れなんて考えないでくださいね。明日のあなたより、今日のあなたの方が1日分確実に若いですから、諦めてはいけません。
座る時間が長くなるほど生活習慣病や痩せにくい体質になることがわかりました。ただちに命の危険はないように感じますが、実はもっと恐ろしい病気になる可能性もあるんです。
飛行機だけじゃない! 日常生活に潜むエコノミークラス症候群
長時間にわたって狭い場所に座っているとかかる病気といえば、「エコノミークラス症候群」が有名ですね。近年は飛行機に乗っていないときにかかるエコノミークラス症候群が問題視されています。
エコノミークラス症候群って?
「エコノミークラス症候群」という名前をよく耳にするようになったのは、21世紀に入ってからです。正式には「急性肺血栓塞栓症」といって、重症例では命に係わることがあります。
名前からわかる通り、飛行機のエコノミークラス席の利用者がかかりやすい病気(症状)として広まりました。エコノミークラスは座席も通路も狭いので、フライト中はじっとしているしかありません。
上でも書いたように、長時間座り続けると血がドロドロになり、場合によっては血栓ができます。足でできた血栓が肺に到達して血管が詰まると、死に至ることもあります。
避難生活が問題に
エコノミークラス症候群は、浮腫みのような比較的軽い症状から、急性肺血栓塞栓症のような重い症状まで、座りっぱなしが原因で起こる症状すべてをさします。ですので、必ずしも飛行機に乗る人だけが発症するわけではありません。
日本でよく話題に上るのは、災害による避難生活の中で発症する例です。
避難所では狭いスペースで大勢の人が生活をともにします。他人の迷惑にならないよう動くのを控える方がほとんどでしょう。また、自家用車で避難して車中泊をしている方も長時間同じ姿勢を取りがちです。
トイレの回数を減らすために水分を控える方も多いので、血栓ができやすい条件が揃ってしまうのです。
長時間のデスクワークも危険
日常生活の中にもリスクは潜んでいます。その最たる例が長時間労働とデスクワークです。一番最初に書きましたが、日本人の労働時間は非常に長く、勤務時間中ずっとPCに向かっている人は普通に働くだけで座位時間が8時間を超えてしまいます。
しかも集中すると水分補給を忘れやすく、また、休憩に規定がある企業もあります。
長時間の座位が危険だからといって、仕事をしないわけにはいきませんよね。デスクワーカーはどのように酷い浮腫みやエコノミークラス症候群を防げばいいのでしょうか。
1時間に1度は立ち上がろう
繰り返しますが、足が浮腫んだりエコノミークラス症候群を発症したりする原因は、主にふくらはぎの筋肉を動かさないことで、足に血が溜まってしまうことです。
逆に考えると、定期的に筋肉を動かして、足に溜まった血を身体の中心部に戻してやればいいのです。
定期的に、というのがポイントです。長時間座りっぱなしでドロドロの血が足に溜まってから運動をしても遅いのです。むしろ血栓ができてから急に動くと、肺の血管が詰まる可能性が高くなります。血がドロドロになる前に、こまめに動かなくてはいけません。
立ち上がる動作は筋肉を使う
ふくらはぎの筋肉をもっとも大きく動かすのは、どのような運動だと思いますか?
答えは屈伸運動です。ふくらはぎの筋肉は、上部が膝の骨、下部が足首の骨とつながっていて、膝関節や足首を動かすときにふくはぎが活躍します。
椅子から立ち上がる動作は、足首にも膝にもほどよい力がかかります。屈伸運動といってもいきなりスクワットをする必要はありません。エコノミークラス症候群を防ぐのが目的なら、ときどき立ち上がるだけでかなり効果があります。
仕事に熱中して長時間座りっぱなしにならないように、PCなりスマホなりにアラートを設定しておきましょう。理想は1時間に1回、5分程度の軽いストレッチですが、ストレッチの時間はなかなか取れないと思いますので、トイレに立ったりお茶を淹れたりするだけでかまいません。
座ったままでもできる運動は?
休憩時間が決まっていたり休憩が取りづらい職場の方は、座ったままで血行改善を試みるしかありません。
膝を動かしづらいのなら、足首の運動を頑張りましょう。座ったままで足を持ち上げ、足首をぐるぐる回すのが効果的です。足を持ち上げるのもはばかられるなら、足の裏を床につけ、つま先立ちになってかかとを持ち上げたり、逆にかかとをつけてつま先を持ち上げたりすることでふくらはぎのストレッチができます。
ときどき膝の裏を中心に手もみマッサージをするのも効果的です。
結論! 休憩は命を守るためにある
長時間の座りっぱなしが死亡リスクを高めるというのは、脅しでもなんでもありません。デスクワークが中心の生活では、慢性的な運動不足に陥りやすくなります。普段から血糖値が高い方や、中性脂肪量が多い方は、より気を付ける必要があります。
仕事に熱中するとつい休憩や水分補給を忘れてしまうことがあります。しかし定期的な休憩は、自分の命を守るために絶対必要なのです。足が浮腫みやすい方や、最近下半身が太ってきた方、運動す僕の方は生活を見直して、立ち上がる回数を増やしてください。
足の浮腫みを取りたい方には、仕事中や通勤中にこっそりできるエクササイズもオススメです。