※このページは2019年9月19日に更新されました。
春だけじゃない! 夏の終わりから増え始める花粉症
8月も半ばを過ぎるころから、くしゃみや鼻水、喉の痒みや咳といった症状に悩まされる人が増えはじめます。季節の変わり目特有の風邪ならば、食生活を正してたっぷり寝れば数日で回復します。しかし症状がいつまでも長引くようなら、花粉症の可能性があります。
日本では、花粉症といえば2月~5月ごろの病気というイメージが強いですよね。スギ花粉とヒノキ花粉でアレルギーを発症する患者が圧倒的に多いからです。
しかし花粉症の原因となる植物はスギとヒノキだけではありません。スギ・ヒノキに次いで3番目の原因となる植物は、秋に花粉を飛散させる「ブタクサ」です。
ブタクサは背の低い雑草です。背の高い樹木であるスギやヒノキと違って、近づかなければ花粉に触れることはありません。
ただしブタクサをはじめとする秋の花粉症は、咳喘息や果物アレルギーを誘発しやすいので、アレルギー体質の人は特に注意が必要です。
秋の花粉症とその原因、対処法を見ていきましょう。
秋の花粉症の原因となる植物
秋の花粉症の主な原因はブタクサです。
しかしブタクサ花粉だけがアレルギー症状を引き起こすとは限りません。違う植物であっても、花粉に含まれるアレルゲンが似ているケースがあるからです。たとえばスギ花粉症患者の7割以上は、ヒノキ花粉にも反応します。
またアレルゲンは血液検査をしない限り特定できません。ブタクサアレルギーだと思い込んでいるだけで、実は別のアレルギーだという可能性は十分考えられます。
それでは秋の花粉症の原因となる植物を見ていきましょう。
ブタクサ
名称 | ブタクサ |
分類 | キク科ブタクサ属 |
高さ | 30cm~150cm |
花粉の飛散時期 | 8月~10月 |
ブタクサは北アメリカ原産の一年草です。英語では「hogweed(ホッグウィード)」といいます。和名のブタクサは、hog(豚)+weed(雑草)を直訳したものです。
明治初期に渡来し、昭和初期には全国各地に定着しました。河原や道端、空き地などに生える典型的な雑草の一種です。
特徴的な房状の黄色い小花はすべて雄花で、雌花は房よりも下に咲きます。花粉が飛散するのは、雄花と雌花がわかれているからです。花粉の飛散距離は数百メートル程度です。
またブタクサと同属の「オオブタクサ」も花粉症の原因植物です。名前の通りブタクサより大きく、高さは3メートルにもなります。
ヨモギ
名称 | ヨモギ |
分類 | キク科ヨモギ属 |
高さ | 50cm~100cm |
花粉の飛散時期 | 8月~10月 |
ヨモギはキク科ヨモギ属の多年草です。日本では古くから若葉をつんで草餅にして食べたり、乾燥させた葉から薬を作ったり、葉の裏の綿毛からお灸のもぐさを作ったりと、ヨモギをさまざまな用途に用いてきました。
ほかにも地下茎を横に伸ばして群生する性質を利用して、土手などの傾斜にヨモギを植えることもかなり最近まで当たり前に行われていました。
しかしヨモギ花粉もアレルゲンになることはあまり知られていません。身近な場所にヨモギが生えていても、花は見たことがない(目にしていてもヨモギの花だとは思っていない)方も多いでしょう。
しかもヨモギとブタクサは同じキク科の植物で見た目も似ているわりに、花粉に含まれるアレルゲンは違います。つまりアレルギー検査でブタクサをチェックするだけでは、ヨモギのアレルギーまでは調べられないということです。
繁殖力が強く、最近まで人の手で植えられていたこともあって、ヨモギ花粉はブタクサ花粉よりも大量に飛散しているので注意が必要です。
カナムグラ
名称 | カナムグラ |
分類 | アサ科カラハナソウ属 |
花粉の飛散時期 | 8月~10月 |
カナムグラはアサ科のつる植物です。雄花が咲く雄株と、雌花が咲く雌株にわかれています(上の写真は雄花)。日本では、日当たりのいい場所にある電柱やガードレールに巻きついていることが多いです。
花粉の飛散距離は数十メートル程度ですが、身近に生えていると吸い込んでしまう可能性があります。
イネ科植物
イネ科植物の花粉飛散時期は5月~6月がピークですが、イネに付着していた花粉が舞い上がるため、稲刈りシーズン(秋)にも花粉症の原因となります。また秋の七草に数えられるススキのように、秋に花粉を飛ばすイネ科植物もあります。
秋の花粉症が重症化しやすい理由
現代日本で最も患者数が多いのはスギ・ヒノキが原因の、春の花粉症です。それに比べると、ブタクサやヨモギが原因の秋の花粉症患者は少なく、春ほど目立ちません。しかし春と秋では主なアレルギー症状が違い、秋の花粉症の方が重症化しやすいと言われています。
ブタクサやヨモギの花粉は小さい
スギ花粉やヒノキ花粉の大きさは30マイクロメートル~40マイクロメートル(0.03㎜~0.04㎜)程度です。小さいですが鼻毛にひっかかるサイズです。くしゃみや鼻水で体外に排出できます。
一方ブタクサやヨモギの花粉粒子の大きさは、スギ花粉の半分程度しかありません。花粉の一部は鼻毛フィルターをすりぬけて体内に侵入します。そのため鼻よりも喉の症状が強く出やすいのです。
しかも小さい粒子は体外へ排出するのが難しいです。アレルゲンが長くとどまるため、アレルギー反応も強くなります。体表面についた花粉も落ちにくいため、肌が痒くなる人も多いです。
放置すると咳喘息や喘息を誘発するおそれも
喉の炎症は鼻の炎症とも密接な関係があります。鼻水が増えると後鼻漏の量も増えます。喉の炎症はちょっとした刺激で悪化し、咳が出やすくなります。
痰のからまない乾いた咳が8週間以上続くと「咳喘息」と診断されます。咳は体力を削りますし、咳のしすぎで肋骨などが疲労骨折することも珍しくありません。
さらに咳喘息患者の1/3程度が気管支喘息に移行するといわれています。咳が長引く場合は、なるべく早く受診してください。初期段階ならアレルギーを抑える薬を飲むだけで、症状が改善する可能性が高いです。
果物がNGに!? 口腔アレルギーを併発するかも
アレルギー体質という言葉がありますが、アレルギー症状は重複しやすいことが医学的にわかっています。アレルギー反応を引き起こすアレルゲンが増えていくこともよくあります。
花粉症(花粉アレルギー)患者は、口腔アレルギー症候群を併発しやすいです。口腔アレルギー症候群とは、食べ物を口に入れてから15分以内に口腔(唇や口の中、喉)がイガイガしたり痒くなったり、腫れたりする病気です。
ブタクサ花粉をはじめとする秋の花粉症患者は、メロンやスイカ、セロリなどの果物・野菜アレルギーを併発する可能性があります。スギ・ヒノキ・イネ科の花粉症も併発している方は、トマト、リンゴ、モモ、オレンジでアレルギーが出るかもしれません。
大量摂取でアナフィラキシーショックを起こすことも
アレルギー反応の中でも、急激に強い症状が出て、命にかかわるような状態を「アナフィラキシーショック」といいます。
口腔アレルギー症候群の症状は基本的に口腔部分に出ます。唇が赤く腫れたり、口や喉がイガイガしたりといった症状がほとんどで、果物の花粉や花粉に似た物質が口腔に触れることで起こります。全身症状が出るのはまれです。
ただし果物や野菜を食べることで一度に大量にアレルゲンを摂取してしまい、アナフィラキシーショックに陥ることはしばしばあります。息苦しさを感じたらただちに病院へ行くべきです。意識がもうろうとしたら、周囲の人は迷わず救急車を呼んでください。
ブタクサ花粉・秋の花粉から身を守る方法
ブタクサをはじめとする秋の花粉症の原因となる植物やイネ科植物は背が低く、花粉の飛散距離も数十~数百メートル程度と短めです。風に乗って数百キロも移動し、上空高くから降ってくるスギ・ヒノキ花粉とは違って、気をつければある程度避けられます。
河川敷や空き地に近づかない
飛散距離が数百メートル程度ということは、原因となる植物が生えている場所に近づかなければ花粉に触れずにすみます。特にブタクサとヨモギは、河川敷(土手)や空き地、道端、山際、あぜ道など、さまざまな場所に生えます。「雑草が生えている場所」を避けるよう意識してください。
東京はほとんどすべての道が舗装されていますが、公園や土手などに群生しているのをよく見かけます。また道端のアスファルトの割れ目に生えていることもあります。ペットの散歩やウォーキングに出かけるときに特に注意しましょう。
マスクをつける
マスク着用はとても効果の高い花粉症対策です。ブタクサ花粉は小さいとはいえ、マスクで十分防げるサイズです。体内に侵入しなければアレルギー症状も出ませんし、すでに症状が出ている場合も新たな刺激を防ぐことができます。
市販の安価な使い捨てマスクで十分です。自分の肌に優しいものを選びましょう。喉の炎症や咳が気になる方は、保湿効果が高いマスクがオススメです。
同様に、メガネも目のアレルギー対策に効果があります。
秋の花粉症を疑ったときに受診する科とは?
ブタクサ花粉症をはじめとする秋の花粉症の症状は、風邪の初期症状とよく似ています。スギやヒノキと違って花粉に触れる機会も少ないため、花粉症だと気づかない人も多いです。
しかし症状が長引く場合や、果物を食べたときに口に違和感が出る場合は、受診することをオススメします。花粉症や風邪ではない病気の可能性もありますし、アレルゲンを特定すれば避けやすくなります。
症状に応じた科に行こう
病院へ行くにしても、何科にかかるべきか迷いますよね。迷ったときは最も困っている症状(主症状)を診察してくれる科を選びましょう。
具体的には以下の6つの科がオススメです。
秋花粉症で受診する科
- ・耳鼻咽喉科
- ・眼科
- ・皮膚科
- ・内科
- ・呼吸器科
- ・アレルギー科
部位ごとの症状よりも微熱や倦怠感といった全身症状が辛い場合は内科に行きましょう。軽症なら内科だけで治療が受けられますし、アレルギーにも対応できる内科もあります。必要に応じて専門の科を紹介されることもあります。
花粉症が確定している軽症の方は薬局へ
2020年度から、花粉症の薬が保険適用外になる可能性が高いです。というのも処方薬と市販薬の成分や効果はほぼ同じだからです。重症患者や花粉症と紛らわしい病気の可能性についてはこれから議論されますが、すでに花粉症だとわかっていてアレルゲンも特定できている軽症の方は市販薬で十分です。
なお、保険適用外になる可能性が高い「花粉症の薬」とは、アレルギー症状を抑えるための抗ヒスタミン薬をさします。事前に服用することで効果が出る予防薬などについては、続報が出るのを待ちましょう。
また市販薬を服用しても症状が軽減しない場合や副作用が出る場合は、すみやかに受診すべきです。
レーザー治療はシーズン前に
花粉症は一度発症すると一生つきあうことになる病気です。スギ・ヒノキ花粉症の方は毎春、ブタクサ・ヨモギ・カナムグラ花粉症の方は毎秋に症状が出ます。いまのところ完治させる方法はみつかっていません。
花粉シーズンに入る前なら予防治療が効果的です。特に人気の高いのは「レーザー治療」です。重症の方や、アナウンサーや声優など声が重要な職業の方にとっては欠かせない治療になっています。
レーザー治療は鼻の粘膜をレーザーで焼く治療法です。くしゃみ・鼻水・鼻づまりに高い効果を発揮します。ブタクサ花粉症でも鼻の症状が強い方や、鼻水によって喉の症状が悪化しやすい方はレーザー治療の恩恵を感じやすいです。
ただ予防治療ということからわかる通り、症状が出る前に治療を受けなくてはいけません。治療は数回にわけて行うので、花粉シーズン前に余裕をもって受診しましょう。
なおレーザーと同じくらい人気の「舌下免疫療法」はスギ花粉にしか適用できません。ブタクサ花粉用の治療は今のところありません。
まとめ:花粉アレルギー症状を長引かせない!
秋の花粉症は、ブタクサ・ヨモギ・カナムグラの花粉が主な原因です。春に猛威を振るうスギ・ヒノキ花粉と違って、ブタクサ花粉などは飛散距離が短いため、群生地を避けることで花粉と触れ合う機会が減らせます。
ただし、ブタクサ花粉症と思い込んでいる方の中にヨモギ花粉症の方がいることや、咳喘息や口腔アレルギー症候群を併発しやすいことなど、春の花粉症とは違った部分で注意が必要です。
花粉症に限らずアレルギー症状は、1つ発症するとほかのアレルゲンにも反応しやすくなります。風邪だと思い込んでブタクサ花粉症やヨモギ花粉症を放置すると、のちのち重症化するかもしれません。
風邪の初期症状に似た症状が長引く場合は、なるべく早めに病院へ行き、アレルゲンを特定しましょう。アレルゲンとなっている花粉さえ判明すれば、春の花粉症より防ぐのは簡単です。