はじめに
日本列島を逆走した迷走台風こと動きが複雑な台風12号は、2018年7月30日6時現在、九州付近で停滞しています。九州の方や先日の豪雨で地盤が緩んでいる地域の方は今後も気を付けてくださいね。
当初、関東甲信越に上陸すると予測されていた台風12号ですが、実際には三重県に上陸し、関西を縦断していきました。
予想より被害が少なかったのは大変ありがたいことですが、このところほとんど雨が降っていない都民としては、別の懸念が持ち上がりつつあります。それは「水不足」です。
2018年は極端な空梅雨でした。梅雨の間、まとまった雨が降らなかった上に、観測史上初めて6月中の梅雨明けを迎えました。
「湯水のように使う」という表現があるように、日本は水資源の豊富な国です。雨水をダムやため池に溜めることで1年を通じて安定した水道水の供給が可能になっています。空梅雨で雨が少ないと、ダムが干上がって水不足になります。
今回の台風で空梅雨で減ったダムの水量が回復すると見込まれていましたが、残念ながらアテは外れてしまいました。このまま雨が少ないと、ダムの水が枯渇してしまうかもしれません。
都内の水道を支えるダムの現状と、水不足に備えて私たちができることについて解説します。
ダムは川に流れる水量を調節し、水道水を安定供給してくれる
日本の為政者は大昔から「治水」を重要視してきました。川が溢れないように土手(堤防)を整備し、川が少ない地域ではため池を作りました。平成30年7月豪雨の被害が拡大したのは、もともと土砂崩れが起きやすい土地に想定をはるかに超える量の雨が降ったからだと考えられています。
現在、治水に大きな役割を果たしているのが「ダム」です。川の上流にダムを作って水を堰き止めておくことで、雨が少ない季節でも安定して水道水を供給できます。また大雨が降ったときに、川に流れ込む水量を調節してくれます。ダムからの放水を利用して水力発電がおこなわれることもあります。
皆さんは1994年の水不足を覚えていますか?「タイ米騒動」の次の年のできごとです。2018年と同じように空梅雨のあと猛暑になり、ダムが干上がって夜間断水や給水制限が行われました。トイレはバケツの水で流さなくてはいけなかったし、お米を炊けないので給食がパンばかりになりました。
一般的に、日本のダムの貯水量は、4~6月が最も多く、7月~10月は最も少なくなります。春には100%近くまであった貯水率が、夏の一番暑い盛りには50%を切ることもザラです。梅雨にしっかり雨が降ってさえくれれば水が枯渇することはありません。
空梅雨で貯水量が十分でなくても、台風が来ると回復します。2年前の2016年は、6月中旬時点で貯水率が危険なラインまで落ち込んでいましたが、その後台風が次々と発生したため断水せずに済みました。
2018年は、1994年ほど酷くはありませんが7月半ばから急激に貯水量が減りつつあります。台風12号で回復するのではないかと期待されていましたが、逸れてしまいました。
東京都心部は「利根川水系」「荒川水系」に支えられている
東京都の水道を支えているのは、7割が「利根川水系」「荒川水系」、3割が「多摩川水系」です。都心部の多くは「利根川水系」「荒川水系」を利用しています。利根川水系のダム4つと貯水池1つ、荒川水系のダム2つと貯水池1つを水道用水に用いています。
どちらの水系も大切な水源ですが、特に利根川水系には巨大なダムがあるので、利根川水系流域の降雨量とダムの貯水量(貯水率)は、都民の暮らしを大きく左右します。
八木沢ダム、下久保ダム、草木ダム、奈良俣ダム、奥入瀬貯水池の貯水量が著しく減ると、給水制限や断水が発生します。リアルタイム情報は「利根川ダム統合管理事務所」サイトで1時間ごとに更新されていますが、どのダムも全体的に貯水量が少なくなっています。
上の図は、東京都水道局が公開している利根川水系ダムの貯水量です。2018年7月27日時点のもので、赤くて太いラインが2018年(平成30年)を示しています。水色が1994年、ピンクが1996年の貯水量ラインなのですが、このままのペースで減っていくと1994年と同じくらい酷い水不足になる危険性があります。
春先に大量に貯水できたおかげでまだ危険域にはありませんが、このまま雨が降らないと大変なことになってしまいます。荒川水系と多摩川水系は平年より貯水量は多めですが、総貯水量が少ないので焼石に水状態です。
しかも悪いことに、利根川水系の中でも東京へ供給されるダムの干上がり具合が酷いのです。(利根川上流域の住人が利用するダムはまだ余裕があります)
基本的に水は上流の人から順番に使う権利があります。東京はどの水系でも一番下流にあたるため、貯水量が足りないと厳しい取水制限や断水が課せられるでしょう。自分の県内で水道水を賄える神奈川県をのぞいた、関東平野全域が水不足に陥る可能性が高いです。
熱中症にならない範囲で節水しよう!
このままでは近いうちにダムが干上がるかもしれない。そんなとき私たちにできることは雨乞い……ではなく(笑)、「節水」です。
2018年4月1日の時点で、東京都の人口は約1378万人、23区だけでも約950万人です。昼間は近隣県から仕事に来ている人がいるのでもっとたくさんの人がいるでしょう。
これだけ人がいれば、一人ひとりが節水を心掛けるだけで1日に消費する水の量が全然変わってきます。逆に全員が「自分ぐらいいいや」と水を無駄使いすると、あっという間にダムの水を使い果たしてしまいます。
これだけの猛暑では使う水の量を減らすのは難しいですし、命にかかわります。「節水」すべきなのは、無駄遣いしている分です。
歯磨きやお皿洗いをしているときに水を出しっぱなしにするのをやめるだけでも、結構な節約になります。水道代的には微量ですが、ダムの貯水量から考えると重要です。またトイレは、小用の場合は水量が少ない方でも十分流れるでしょう。
お風呂に入ったあとの水を洗濯に使いまわすのは、給水制限が始まってからで大丈夫です。残り湯は想像以上に雑菌が繁殖しやすいので、トイレを流すのに使うのにオススメです。
まとめ
いかがでしたか?想像以上にダムの水が減ってしまって、怖いですね。太平洋高気圧とチベット高気圧が日本列島の上に張り出している間は、雨が降りにくいでしょう。もしゲリラ豪雨が降ったとしても、都心部でプチ洪水を起こすだけで生活用水として貯まってくれるわけではありません。大きな被害を出さない程度の雨がピンポイントでダムの上に降ってくれることを祈りつつ、今ある水を大事に使っていきましょう。