就寝中にも熱中症になる時代
2018年7月9日~15日の1週間で、約1万人もの人が熱中症で救急搬送されました。もちろん西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の影響もあるとは思いますが、それだけ梅雨があけて気温が高くなったということです。
ここ数十年で夏の最高気温の平均値がどんどん上昇していますが、近年の夏の本当の恐ろしさというのは、夜になっても気温が下がらないことではないでしょうか。
アラサー世代が子供のころは、昼間の気温がどんなに高くても、夜になって日付が変わるころには窓をあければ涼しい風が吹き込んできましたよね。最近は夜も暑いのでどこの家でもクーラーが必須です。クーラーの排熱でより外の気温が高くなる悪循環に陥っています。
最近問題になっているのが、夜間や昼寝中に起こる熱中症です。
眠っている間、人はとても無防備です。寝ているうちに気温や湿度が上がっていくと、目が覚めるころには指先を動かすことすらできない重度の熱中症になってしまう危険性があります。対処が遅れたり助けを呼べなかったりで、最悪死にいたることもあります。
睡眠中の熱中症対策についてみていきましょう。
もはや「熱帯夜」は死語?夜になっても気温が下がらない
「熱帯夜」とは太陽が沈んでいる間の最低気温が25℃以上の夜をさします。アラサー世代なら小学生くらいまでは、熱帯夜の日だけクーラーをつけ、それ以外の日は窓を開けて寝ていた人が多いと思います。
日本全体で熱帯夜の日数が年々増えています。元は都市部のみのヒートアイランド現象として扱われていましたが、現代は都市部へ人口が流入し、またクーラーが生活必需品となったことで、小さな町でも夜間の気温が下がらなくなっています。
2010年代に入ると、夏場は熱帯夜でない日のほうが少ないくらい、25℃以上の日々が続いています。それどころか夜間の最低気温が30℃を超える日もしばしばあり、俗に「スーパー熱帯夜」「超熱帯夜」などと呼ばれ始めています。
ヒトの平熱は周囲の環境に関わらず約37℃に保たれるようになっています。気温が27℃を超えるころから、体温調節がうまくいかず、熱中症を起こす人が増え始めます。ヒトは汗を蒸発させるときの気化熱で体温を下げるので、同じ気温でも湿度が高いと汗が乾かず、体温が下がりません。湿度が高いほど体感気温が上がる原因です。
日本の夏は、気温よりも湿度の高さが危険です。気温が1℃上がるごとに、空気が含める湿気の量は等比級数的に増えていきます。少々気温が高くても空気が乾燥していれば汗が乾くので、涼しく感じられます。
起きているときに27℃で「暑い」と感じたら、水分補給をするなりエアコンを調節するなり、日陰に逃げ込むなりできます。しかし寝ているとそういった対処が取れません。
熱帯夜は熱中症になりやすい夜です。そして現代日本の夏は、毎日が熱帯夜です。ことさら熱帯夜と強調することはなくなりました。毎晩、寝るときは熱中症に気を付けなくてはいけないということです。
睡眠中は意識がない状態と同じ
睡眠とは心身を回復させるために、意識をなくした状態で休んでいる状態です。病的な意識不明とは違って、一定時間が経てば自然と意識が回復して目が覚めますし、物音や揺れなどでも目覚めます。
意識不明の人を暑い場所に放置したら、熱中症が進行して命を落としてしまいますよね。
寝ている人というのはそれに近い状態です。もちろん寝ているときも最低限生きていくのに必要な機能は動いています。寝ても心臓や呼吸は止まらないし、尿も作られるし、消化吸収も進みます。汗だってかきます。
しかしこれらの機能はさすがに起きているときほど活発ではありません。新陳代謝系は促進されますが、呼吸はゆっくりになるし、消化器も機能が落ちるので寝る前に食べ過ぎると消化不良を起こします。同じように体温調節も最低限のことはできますが、なにぶん意識がないので水分補給や涼しい環境を整えるといった補助が受けられません。
熱中症の症状にはめまいや脳貧血、意識消失なども含まれています。睡眠中に体温調節ができなくなると、かなり重症化するまで目が覚めない場合があります。むしろ目が覚めるのはラッキーで、脳の機能が暑さでダメージを受けてそのまま煮えるように永眠する可能性だってあります。
寝苦しさは熱中症の初期症状
夏の夜は寝苦しくて寝付けない人が続出します。これは人体の働きとしては正常な状態です。寝苦しいということはその人にとって眠るのにふさわしくない環境にいるということです。
寝苦しさで目覚めることもありますよね。びっしょりと汗をかき、喉がかわいていませんか?これは脳が「このまま寝ていたらダメージを受ける」と判断した結果です。「いったん起きて、涼しいところに行って水を飲んでください」という指令が出ています。
寝起きの吐き気は脱水状態のサイン!?
夏の朝、目が覚めた途端気分が悪くなったり、吐き気で目覚めることもありますよね。これもまた熱中症の症状の可能性があります。
冬ですら人は寝ている間にコップ1杯分の汗をかきます。暑いとその何倍も汗をかきます。起きたときには脱水症状を起こしていて気分が悪くなるのです。寝る前に消化不良を起こすような物を食べていなくて、風邪もひいていない暑い朝に吐き気がする場合は、脱水を疑ってください。
(消化不良以外で)日常的に朝吐き気に見舞われる人は、すでに黄信号に突入しています。軽い熱中症を繰り返していたり、夏バテのせいで熱中症を発症している可能性があります。頭痛も同様です。
室温26℃以下、湿度50%程度がベストな寝室
それでは寝るのにベストな状態とはどのような室温・湿度なのでしょうか。
室温は26℃以下、クーラーはケチらない!
熱帯夜の定義は、夜間の最低気温が25℃以上の夜でしたね。逆に考えると夜間の気温が25℃を超えるようなら、誰にでも熱中症になる危険性があるということです。
熱中症患者が増えるのは27℃付近と書きましたが、湿度や体力・暑さへの抵抗力によっては、25℃くらいでも具合が悪くなる人が出始めます。夏バテしている人は熱中症になりやすいのでやや低めに見積もりましょう。
つい最近まで「クーラーは28℃が基本」と定められていましたが、実はこれは何の根拠もありませんでした。むしろ日本のような湿度が高い国では、28℃設定は暑すぎます。
睡眠中は動かないから体温が上がりにくい代わりに、自分の意思で体温を下げる行動もとれないので、ちょっと低めの26℃以下に設定しましょう。
除湿すれば体感気温が下がります!
湿気は快適な睡眠の大敵です。部屋の湿度は1年を通して50%前後に保たれるのがベストです。日本の場合、冬は乾きすぎ、夏は湿りすぎになります。
同じ気温でも湿度が高いと暑く感じ、湿度が低いと涼しく感じます。先日、エジプトのカイロと京都の気温が同じになりましたが、砂漠の国だけあってカイロの湿度は30%以下です。夏の日本なら70%くらいは余裕で到達するので、カイロより京都の方がずっと過ごしにくく感じます。
日本の夏は世界的に見て非常に過ごしにくく、日本より高温多湿なのは熱帯に属する東南アジアの国々くらいです。
クーラーをつけっぱなしにするのが嫌な人は、除湿機能を利用してください。
冷房はつけっぱなしでも案外安い
クーラーをつけっぱなしにするとなると、電気料金が気になりますよね。ヒーターはダイレクトに電気代が上がりますが、クーラーはつけっぱなしでもさほど高くはなりません。せいぜい1万円前後です。
1万円は大金ですが、もしその1万円をケチって身体をこわしたらその何倍も病院代がかかります。病院代や薬代だけですめばいいですが、重度の熱中症で脳にダメージがあると、後遺症が残ることもあります。
また人工の冷風があたると具合が悪くなるという人は、寝る前に部屋を冷やしておき、布団に入ってから3時間程度で切れるようにタイマーを設定、目覚める1時間前から再び着くようにタイマーを設定しましょう。扇風機やサーキュレーターを利用して、直接風が当たらないように工夫してください。
筆者の睡眠環境は?
おしまいに、2018年7月18日現在の筆者の睡眠環境を公開します。
帰宅後~布団に入るまで:冷房、26℃
布団に入った後~起きるまで:除湿、27℃
(暑い夜は冷房のまま)
起きた後~:冷房、27℃→26℃
以前は28℃くらいに設定してタオルケットで寝ていましたが、現在は26℃に下げてタオルケットと軽めの布団を併用しています。寝苦しさが解消されましたし、お腹が冷えることもなくなりました。
コツは寝る前にできるだけ部屋を冷やしておくことです。水分と塩分はほどほどに飲んでから寝ます。熱中症になるよりはトイレで目が覚めるほうがマシです。
結論! 睡眠中は普段より室温に気を付けるべし!
熱中症が重症化しやすいのは子供やお年寄りです。しかし睡眠中に起きる熱中症は若くて体力がある世代でも、命にかかわります。寝る前に水分をきちんと摂り、室温と湿度を調整し、ベッドは直射日光が当たらない位置に置きましょう。起き抜けの水分補給も重要です。万一のとき助けを呼べるように、スマホは枕元に置いておくことをオススメします。