2019年1月、全国でインフルエンザ警報発令中!
兵庫県の養護老人ホーム「北淡荘」でインフルエンザの集団感染が起こりました。また1月22日には、中目黒駅でインフルエンザに罹っていた女性が線路に転落し電車にはねられて死亡する事故もありました(※インフルエンザと転落の関係はまだわかっていません)。
2019年1月28日現在、インフルエンザの流行状況は過去最悪レベルになっています。年明けに流行のピークを迎えるのは例年通りですが、ワクチンが不足していた昨シーズン(2018年)と比較しても流行の度合いが著しく酷いのは明らかです。
警報レベルで流行してしまった場合、ウィルスに接触しないように生活するのはもはや不可能です。また予防接種を受けた人の感染報告が多く、混乱している方も多いと思います。
予防接種は何を守ってくれるのか、またインフルエンザ流行中に私たちができることなどをまとめました。
予防接種で防げる「重症化」とは?
「【2018年10月】インフルエンザの予防接種開始! 早めの予約で混雑回避しよう」の記事でもお伝えした通り、今シーズンのインフルエンザワクチンは例年と比較しても十分な量が供給されています。昨シーズンより多くの方が摂取されているはずです。
しかしいま、予防接種をしたのにインフルエンザに罹ってしまったということが話題になっています。不信感を覚えている方もいるかもしれませんが、そもそもワクチンで防げるのは「重症化」であってインフルエンザそのものではありません。それでもワクチン接種が推奨される理由をみていきましょう。
ワクチン接種は病気の予行演習
私たちの身体には「免疫」という機能があります。体内に異物が侵入したらすみやかに排除する仕組みです。予防接種とは言ってみれば予行演習のようなもので、ワクチンを打つことであらかじめ免疫に防御法(抗体の作り方)を教えておけるのです。
一度罹れば一生免疫が続く(抗体が作れる)病気もあれば、短期間で効果がなくなる病気もあります。インフルエンザは後者で、ワクチンの効果は5か月程度です。そのため毎年摂取しなくてはいけません。
逆に、風疹や麻疹は一度獲得した免疫は一生(またはそれに近い期間)続きます。幼少期にワクチンを接種していれば、大人になってから罹ることは滅多にありません。
インフルエンザに罹っても軽症で済む
インフルエンザはウィルスの感染力や増殖力が非常に強いです。そのため予防接種を行っていても、体調次第では防御が間に合わず症状を完全に抑えきれないことがあります。また型が違うウィルスがとても多いので、ワクチンに含まれていないタイプのインフルエンザに罹ることもあります。
それではワクチンに意味がないのかというと、そんなことはありません。体内でのウィルス増殖をその人なりの最小限に抑えることができます。ウィルスがあまり増殖しなければ、当然症状が軽くなりますし、ウィルスの排出量も減るので他人にうつす確率も下がります。
なにより重要なのが、予防接種には重症化を防ぐ効果があるということです。
重症化を防ぐ=重篤な合併症を防ぐ
この「重症化」に誤解の元があります。
インフルエンザは普通の風邪に比べると、ずっと症状が重いですよね。38℃以上の高熱が出て、酷い咳が続いて、強い悪寒や倦怠感に襲われ、全身の節々が痛みます。身体が頑丈な人ほどインフルエンザに罹ると「重症だ」と感じます。
しかしこれらは、インフルエンザに感染すれば当たり前に出る症状です。インフルエンザ的には「普通の症状」なのです。しかも多くの場合、薬を飲んで大人しく寝ていれば1~2週間以内に症状は消えます。
インフルエンザにおいて「重症」と分類されるのは、「インフルエンザ脳症」や「肺炎」などの症状・合併症です。体力がない子供や高齢者は重症化しやすく、重い後遺症や障害がのこることもあれば、最悪の場合死に至ります。
予防接種によって防げるのは、インフルエンザ脳症などの重篤な症状です。健康で体力のある成人なら、高熱や咳といったインフルエンザ的には「普通の症状」が出ても、それ以上悪化せずに抑えられる可能性が非常に高いのです。
人混みにはウィルスがいっぱい! 発症を防ぐためにすべきこと
連日報道されている通り、すでにインフルエンザの流行は警報の域に達しています。インフルエンザは空気感染・接触感染するので、ウィルスに触れないよう生活するのは事実上不可能です。
今から私たちができるのは、体内に侵入したウィルスが増殖する前に排除すること、そして発症したら他人にうつさないよう自宅で大人しく寝ていることだけです。
咳やくしゃみの飛沫にウィルスは含まれる
咳やくしゃみはヒトの身体に備わった防御機構であり、ウィルスを対外に排出する機能の一部です。ですので、インフルエンザに罹った人が咳やくしゃみをするのは当然のことです。ただ、ウィルスを大量に含んだ唾や鼻水が、目に見えないほど細かい飛沫になって周囲に飛び散るのが問題です。
咳やくしゃみで飛び散った飛沫は、とても小さくて軽いので長時間空気中を漂います。人混みに行くと感染するのは、目に見えない飛沫を知らないうちに吸い込んでいるからです。
流行を食い止めるには、感染者のマスク着用を徹底するのが一番効果的なのですが、残念ながら義務ではないのでマスクなしでゴホゴホしている人が大勢見受けられます…。中高年ほど口元を手で覆う最低限のエチケットが守れないのは、反射神経が衰えて物理的に咳・くしゃみに間に合わないという側面もあるそうです。
口元を覆った場合でも手にウィルスがついてしまいます。咳やくしゃみのたびに手を洗えるわけではありません。ドアノブや手すりなどを触ってしまい、そこから別の人の手にウィルスが付きます。これが接触感染です。
マスクは空気感染を防げませんが、手についたウィルスが口元に付くのを防ぐ効果は高いです。流行中は完全なノーガードより、付ける方がかなりマシといえます。
ウィルスは喉の表面から侵入・増殖する
鼻や口から侵入したウィルスは喉の表面の細胞に張り付きます。喉の細胞へ侵入成功すると、急激に増殖します。
上に書いたとおり、流行中はウィルスが喉へ侵入するのを防ぐことは難しいです。しかし喉に侵入したからといってただちに発症するわけではありません。細胞内への侵入や増殖を防げば、症状は出ません。
ちなみに予防接種を受けていれば、喉細胞での増殖の段階で被害を最小限に食い止められる可能性が高くなります。
手洗い・うがいで侵入を防ぐ
マスクとならんで口内へのウィルス侵入を防ぐ効果が高いのが、手洗いです。インフルエンザウィルスは人間の体内に侵入すれば爆発的に増殖しますが、体外では弱い存在です。皮膚の表面についていても何もできません。
私たちは自分で思っている以上に、手で口や鼻を触っています。そして喋ったり食事したりするたびに、ウィルスを口内へ取り入れてしまっているのです。手を清潔に保つだけで、インフルエンザを含め多くの病気・食中毒が防げます。
またうがいは、従来効果があると言われてきましたが現在では科学的根拠はないとされています。ただ、インフルエンザウィルスは防げなくとも、花粉や埃を排出する効果はあります。喉の荒れを防ぐためにうがいをすると考えましょう。
喉に侵入したウィルスは水分補給で胃に流す
喉の奥でうがいをしようとすると水を飲んでしまう方もいるでしょう。気分がよくないのはわかりますが、口をゆすぐだけで終わらせるくらいなら、いっそ飲んでしまった方がウィルス退治には効果的です。
インフルエンザウィルスは喉の壁で爆発的に増殖しますが、喉以外の部分では増殖できません。つまり喉に張り付かないよう、胃まで飲み込んでしまえば発症する可能性がかなり低くなるのです。
5分に1度の頻度で、一口ずつお茶を飲むのが非常に効果的です。水分補給もできて一石二鳥です。特に緑茶の殺菌効果は抜群です。緑茶じゃなくてもいいので、身体を冷やさない程度に少しずつ定期的に水分補給する癖をつけましょう。
発症したら薬を飲んで休むべし
年度末を控えた1~3月は最も忙しい季節です。なかなか休みが取れませんよね。しかしインフルエンザに罹った場合は、自宅待機すべきです。
たびたびインフルエンザでも休めない会社が話題に上りますが、インフルエンザの感染力は熱が下がった後もしばらく続きます。他人へうつさないためには、熱が下がって症状が消えた後2日間も自宅にいるべきです。
ウィルスの陽性反応は12時間経過してから?
よく発症直後は検査をしても陰性になってしまう(インフルエンザなのに、ウィルスが検出できない)と言われます。正しく検査できるのは12時間経過してからと言われますが、実際には検査キットによって精度は違います。
一方、高熱などの諸症状を弱めてくれる抗インフルエンザ薬が効くのは、発症後48時間以内だとはっきりしています。つまり病院へ行くのが遅れると、辛い症状が長引く可能性が高まるのです。
無理に12時間以上我慢するよりは、早めの受診をオススメします。最初の検査でハッキリしない場合でも、一度受診しておけば再受診もスムーズです(インフルエンザの可能性が高い患者は通常の待合室とは隔離され、優先的に再検査に回される場合が多いです)。
貰った薬は全部飲む
インフルエンザの診断が下りたら、指定の期間きちんと休みましょう。ここで問題になるのが、症状が軽い人です。特に予防接種を受けていれば、早めに症状が落ち着く場合が多いです。
わかいりゃすい症状が消えてもウィルスの排出はすぐには終わりません。学級閉鎖した場合の元気な子供の行動が問題視されていますが、大人も同じです。元気になったからといって外出すると、ウィルスをまき散らしてしまいます。
また処方された薬は症状が消えても最後まで飲みきりましょう。勝手な判断で薬をやめると、体内に残っていたウィルスが薬に耐性をつけて他人に感染するかもしれません。実際、日本では2018年春に認可されたばかりの薬の耐性菌が出現しています。
会社が休ませてくれない場合
診断書を取り、労基や区の保健所へ通報しましょう。自分と他人の命を守れるのは、自分だけです。
景気がよくないこのご時世、大ごとにしたくない気持ちはよくわかります。が、休めそうにない・休ませてくれそうにない場合でも、病院で事情を話してみてください。
時給・日給制で金銭的な不安がある場合
休めるけれど有給や傷病休暇・手当がない場合や、時給・日給制で働いている方は、休むほどお給料が減って生活が厳しくなります。
病気やケガで休まなくてはいけなくなり、かつ、十分な給与が出ない場合には「傷病手当金」という給付金が受けられる可能性があります。健康保険に加入している人が、連続して4日以上休んだ場合に申請すると、4日目以降のお給料の3分の2程度が給付されます。
生活が厳しくても諦めないでください。社会全体で考えれば、無理して出勤して患者を増やすより、病人に給付金を与えてゆっくり休んでもらうほう最終的にはお得なのです。
規則正しい生活と適度な加湿(保湿)を心掛けて
繰り返しになりますが、予防接種でインフルエンザウィルスは確実に防げません。接種していてもかかる人はかかるし、していなくても全くかからない人もいます。
確実にいえるのは、体力が落ちていると感染しやすくなりますし、重症化の可能性も上がります。体力のない子供と高齢者にとってインフルエンザは非常に危険な病気です。
働き盛りの20代や30代でも、無理がたたれば身体が弱ります。身体が弱ればインフルエンザにつけこまれます。体力キープには規則正しい生活、特に十分な睡眠が必要です。
またインフルエンザは乾燥していると活発化します。逆に湿度を50%程度に保つと感染力が下がります。寝室に加湿器を置いたり、こまめに水分をとったり、マスクをつけて乾燥をふせいだり、そういった細かい努力が感染予防に高い効果を発揮します。
予防接種した方もまだの方も、インフルエンザに罹った方もまだの方も、みなさん規則正しい生活と適度な保湿を心掛けてくださいね。